虫の霊
田中正男(仮)さんは、霊感が人一倍あった。
人はもちろんのこと、動物の霊も日常的に見ていた。
しかし、ある疑問が田中さんには付きまとっていた。
人も動物も霊があるなら、なぜ虫の霊は見えないのか?
その疑問を晴らすべく、田中さんはとある実験を試みた。
最初の内は踏み潰された虫を夜にじっと見ているだけであった。(それでも幾分か気持ち悪いが。)
見える気配が一向に無い田中さんは、虫を殺してみることにした。
無益な殺生で虫達は次々に殺されていったが、田中さんは「霊が見えない」と、その手を止めることはなかった。
人の霊は夢枕に立つ。
そのことをふと思った田中さんは、殺した虫たちを、自分の枕に詰め込んでいった。
虫の死骸で一杯になった枕の寝心地は想像に及ばないが、田中さんはこれなら見えるかもしれないと満足そうに眠りについた…が、やはり見えなかった。
田中さんは虫の霊が、見えない、見えない、とうなされるように、来る日も来る日も虫を殺しては、寝床に持ち込んでいるという。