花火
加奈子、好きだよ。
当時の恋人の隆浩は、打ち上がる花火を背に私を見つめて、そう言った。
その後、私たちは別れた。
隆浩は、あまり好きになれなかった。
どこか、頼りなくていつもやきもきしてた。
隆浩は別れたくないとしつこく私に付きまとった。
今では他に彼氏がいる。
そんな私は今の彼氏と花火に来た。いつか隆浩と来た花火会場だ。
ふと、隆浩の気配を感じたけど、気のせいかな? 私はあまり気に留めることなく、花火に夢中になっていた。
加奈子、好きだよ。
そう呟くような声に照れながら横を向くと、彼氏は夜空に上がる花火をじっと見ていた。
え? 今の誰?
「好きだよ。」
はっきり聞こえた。
それは…隆浩の声だった。
薄気味悪さを感じ、周囲を見渡してみても、隆浩の姿はなかった。
どこらからか視線を感じる…。
私は、視線を感じる方を…花火を見上げた。
花火の中に、隆浩は居た。
花火が、一つ、打ち上がる度に、隆浩は、囁いた。
「好きだよ。」花火が上がる。
「ずっと見てる。」花火が囁く。
「離れないから。」花火が散る。
夜空に打ち上がる大輪の花火は、隆浩の顔となって、花火が終わるまで、私に愛を囁いた。
私は金縛りに遇ったように身動きが取れず、隆浩の散ることの無い夜空の執念に、呑まれてしまいそうだった。
私は毎年、隆浩に会いに行く。
隆浩の執着を終わらせるため、彼氏と一緒に、花火を見上げる。