怪談備忘録

ネットを始め、様々な怪談を集めてみました。

夜空の星のように

F子さんは幼少の頃から動物を飼うのが好きで、猫や犬を数匹育てていた。動物好きが高じてペットショップで働くことになり、愛らしい犬猫の世話をすることにやりがいを感じ、天職に恵まれたと熱意をもって仕事に取り組んでいた。

ペットショップは購入に至らなかった動物は商品にならないので、引き取り業者にお願いをする可哀想な子も多く居る。

F子さんは業者の実態を知らなかった。

引き取られた子達の運命を心配はしていたものの、その多くが悲劇に見舞われることを、知らずにいた。

ある日いつものように仕事をしていると、ケージの中に、引き取られたはずのワンちゃんが居るのが見えた。

「あれ?」と思い、ケージの近くにきて覗き込むも、その中は空であった。「おかしいな?」と思うと、ワンちゃんの悲しい鳴き声が響いた。

嫌なものを感じたF子さんは、店長に起きたことを告げると、別段驚きもせずF子さんに

「もっと驚くものを見せてあげようか?」と言った。

営業を終えてからF子さんをペットショップの空き部屋に連れていくと、おもむろに電気を消した。

すると壁や天井に淡く光る無数の明かりが小さくきらめいた。それはまるで夜空の星のように綺麗で、F子さんは店長が気晴らしに楽しませてくれたのだと心を和ませた。

「素敵ですね。」そう店長に言うと、「えっ?」と驚いた様子を見せた。

店長は引き取り業者にお願いした動物の末路を知っていたので、毎年一回この空き部屋で、葬儀業者に頼みペット供養を行っていた。ペットショップは売れ残った子達は経営の負担となるため、引き取り業者の存在無しには成り立たないのだ。

「暗闇に浮かんだ光はさ、ここで売ってた動物達の目なんだよ。年に一度の供養の日にだけ現れるんだ。不思議だろ? ペットショップのケージの中が一番幸せなときだったのかな。」

引き取られた動物達は業者が転売を図るが、売れなかった子達は余程善意のある業者でない限り、ろくな世話も受けず、病気や衰弱して死んでしまうという。

星空のように見えたものは、この店に未練を残した動物達の無数の目が、恨めしそうに私達を見ていたのだ…。そう気付くとぞっとして、卒倒しそうになった。

「この光に慣れてこそペット業者は一人前だ。F子さんには期待してるよ。」

店長に笑顔を向けて励まされたが、F子さんは気が気ではなくなり、そのままペットショップを辞めてしまった。

「今でも可愛がってた子達のことや、あの部屋に浮かんだ無数の目の明かりを思い出すんです。」

F子さんはこの経験がトラウマとなり、現在は引き取り手の無い動物達の里親を捜すボランティアを請け負っているそうだ。

F子さんはその後、夜空を見上げると動物達がこちらを見ている…と恐怖に駆られてしまい、星空を見ることはなくなってしまったという。

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