怪談備忘録

ネットを始め、様々な怪談を集めてみました。

留子さんの家

青森の古民家に住んでいた高守留子(仮)さん。どこにでもいるごく平凡なお婆ちゃんで、その家族も一緒に暮らしていた。

留子さんは家でじっとしているよりも、近所の家に遊びに行っては茶飲み仲間と話しを咲かせることが好きだった。

誰からも慕われる留子さんは人がよく、無理な頼み事でも嫌な顔もせず引き受けてくれていた。

その優しい性格が災いした。

高守家の年長者は夫に先立たれた留子さんなので、家や土地の権利は留子さんに任されていた。ある日付き合いの長い酒屋の爺さんが、店の資金繰りが厳しいからと借金の保証人になってくれないかと、留子さんに頼んだ。

お人好しの留子さんも悩んだが、付き合いが長く信頼していたため、快く引き受けてしまった。

酒屋の爺さんは店の経営としたのは建前で、息子が不倫相手にのめり込み、そのゴタゴタで裁判費用が必要だったらしく、留子さんが保証人に必要だったのは、その費用を捻出するためであった。

返す宛の無い酒屋の爺さんは、家も土地も売り払ったが、借金は残ってしまった。息子は不倫相手に会社の金を使い込んでいたのだ。

留子さんは家も土地も奪われてしまった。愛想を尽かした家族は留子さんの元を離れた。家族も財産も失った留子さんは、ストレスと今後の生活の不安から倒れ、病院に入院することとなってしまった。

奪われた家は、取り壊すことが決まった。長年、夫婦に家族と住んでいた家が壊されると聞いた留子さんは、あまりの悔しさに身を震わせていた。

解体工事が始まった日、近所の人が集まる中に、留子さんの姿もあった。近所の人は気の毒で、声をかけることも出来なかった。

留子さんは地べたに正座で家が壊される様をじっと見ていた。泣きながら読経し、しきりに家族の名前を呼んでいた。先祖に顔向けできないと、ただ涙を流し後悔をしていた。

日も暮れかけ、みな帰路についた後、留子さんと仲の良かったお婆ちゃんが心配になり、病院へと見舞いに行った。

病院へ赴くと、留子さんはすでに病室で横になっていた。先刻は辛いものを目の当たりにしたねと話をすると、留子さんは訝しげな顔をする。

留子さんはまだボケていないように見えたが、ショックのあまり忘れてしまったのだろうか? 病室でずっと眠っていたという。

誰しもが留子さんを見ていたので、そんなはずはないと看護婦さんに聞いたが、看護婦さんも眠っていたという。

家の解体工事に現れた留子さんは、一体何であったのだろうか? 誰もその正体を説明することは、出来なかったという。